
文・松井 勉 写真・向後一宏 text / MATSUI Tsutomu photos / KOHGO Kazuhiro
800㏄という世界的に見ればミドルクラスに当たるレンジに、2気筒のトラベルエンデューロがないことにBMWは着目した。そして、軽く、アクティブで楽しいバイクを、というプロダクトコンセプトを掲げ作り上げた2作こそ、昨年リリースしたF650/800GSなのである。
昨年発売され国内でも高い評価を受けているF650GSに続き、生産の関係で大洋州、アメリカへの導入がおよそ1年遅れていたF800GSのデリバリーが始まった。両車の違いを一言でいえばシティ系かオフロード系かである。ストロークアップしたサスペンション、21インチの前輪、そして出力アップを果たしたエンジン。舗装路はもちろん、ダートライディングに高い付加価値を求めるライダーに訴求するために作り込まれたのがこのF800GSなのである。
走りを見よう。まず舗装路では不満のないハンドリングを示す。これぞGSブランドの強みである。長いサスペンションと大径フロントホイールの影響を感じないではないが、GSらしい弱アンダーな性格に収まっている。前後ブレーキの実力もそれに呼応する。入力と減速感のバランスが良く、細い前輪ながら、頼りないと思わせる場面を感じさせない。ABS装備モデルならさらに高い安心感があることは言うまでもない。
エンジンは5000回転以上になるとフロントフォークをグッと伸ばしながらダッシュする様は650にはない部分だ。85 psは伊達ではない。このパンチ力こそ800GSの醍醐味だ。
オフロードでは、ハンドリングのオンザレール感こそ650に一歩劣る。前輪19インチのほうが、相対的に前 最もエキサイティングな GSの登場!? 輪荷重がしっかり載る印象なのだ。しかしバイクを積極的にコントロールする術を使えば、長いサスペンションとパワフルかつ扱いやすい特性のエンジンで、テールスライドを演じることも難しくない。こんな柔軟さが800の特徴といえるのだ。昨年私はGS TROPHYというイベントに参加し、F800GSでサハラを走ってきた。タイヤこそオフ性能の高いものを履いていたが、冒険ツアラーとしての実力は並々ならないものがあったことを報告しておきたい。
ウェアからラゲージキャリーシステムまでオプションリストが充実している点もBMWの魅力。もちろんそれは日帰りのダートトリップから泊まりのツーリングまで広く対応する。GS一族の中でもひと際エキサイティングな乗り味とGSならではの万能性。これを高次元でバランスさせたのがF800GSなのである。

08年登場の新F・GSシリーズは、800㏄並列2気筒を積みながら、よりデイリーユースに優れた650GSと、ロングストロークのサスペンションとハイチューンエンジンを組み合わせ、30年に迫るGSの歴史の中でも最高のオフ性能を与えたこのF800GSとに色分けされている。ミドル級ダートツアラーのセグメントを再開発した一台だ
SPECIFICATIONS
TRANSMISSION:6-SPEED
LENGTH:2320mm /// WIDTH:945mm
HEIGHT:1420mm /// WEIGHT:216kg
WHEELBASE:1586mm
SEAT HEIGHT:850mm
ENGINE:INLINE2 DOHC
DISPLACEMENT:798cc POWER:85ps/7500rpm
TORQUE:83Nm/5750rpm
TIRES:F:90/90 21 R:150/70R17
PRICE:\1,344,000~1,533,000

大小の楕円を使ったメーター。速度計の左脇にワーニングランプを配す。右のウインドウにはトリップ、オドのほか、外気温、航続距離など多機能情報を表示する

F650GSと同排気量ながらカムプロファイルを変更。バルタイとリフト量を専用チューンして異なる特性としたエンジン。F800Sと同等の性格で5000rpm以上が明確に強力

230mmのトラベルを持つφ45㎜インナーチューブの倒立フォーク、21インチフロントタイヤなどオフロードを強く意識した装備だ

駆動はチェーンドライブを採用。イニシャルプリロードを油圧式のダイヤルで簡単に変更できるシステムを持つ。210mmというホイールトラベルが高いツアラー性能を物語る