文・堀江史朗 写真・向後一宏 Text / HORIE Shiro photos / KOGO Kazuhiro
大切にされるブランドには、本質的な魅力が必ず存在する。
トライアンフはオートバイ製造業として最も長い歴史をもつが、その魅力とは走る悦びにほかならない。トライアンフが長きにわたってバーチカルツインにこだわった理由は、同排気量ならばシングルエンジンよりも軽量で最高速度に優れるからである。1950年代にサンダーバードやボンネビルといった軽量かつ高性能な名車を世に送り出し、欧州だけでなく北米でも圧倒的な支持を得ることが出来たのも、20世紀初頭にマン島TTレースで大活躍したときのスピリットが正しく継承されていたからだ。そしてサンダーバードの名称を復活させたニューモデルにも、その魅力は連綿と息づいているのだ。
同じ英国発祥のブランドであるロ ータスにも似た系譜を感じる。軽量で走りに優れた市販モデルに創業者の想いが強く込められ、それがブランドイメージを形作っていった。このエキシージCUP260はその権化のような存在。伝統とは歴史の蓄積。一朝一夕に成るものではないのだ。
文・河野正士 text / KOHNO Tadashi
仏頂面で冗談が通じない。英国紳士というと、そんな頑固オヤジを想像する。でも本当は、パブでエールに舌鼓を打ち、地元のサッカーチームが勝ったなら大はしゃぎ。パンクカルチャー発祥の地だけあって反骨精神も旺盛だ。クールな外見とは異なり、その中に熱い魂を秘めている。それこそが英国紳士のスタイルなのである。
トライアンフも、そんな英国的なブランドだ。そして、その最新モデルがサンダーバードである。
心臓部には、アイコンとも言えるバーチカル(直立)ツインエンジンを採用。並列2気筒エンジンとしては、量産車世界最大排気量となるDOHC1600ccの排気量を持ち、不等間隔爆発を生み出す270度クランクと2つのバランサーが組み込まれている。
この270度クランクが、サンダーバードの“肝”になる。かつて“モーターのようだ”と表された、伝統の360度クランクとは異なり、あえて爆発間隔をずらすことで“鼓動感”を作り上げたのである。
これによって自らがラインナップする、クルーザーファミリィ内で差別化を図ると同時に、ライバルとなるHDダイナシリーズとは異なるアピアランスとエンジンフィーリングで勝負しようという訳だ。
その乗り味は、目論見通り、ファミリィともライバルとも違っている。大排気量の不等間隔爆発エンジンと聞けば、扱いきれないほどの荒々しさを想像するが、そこはバランサーとフューエルインジェクションによってしっかりとコントロールされている。しかも、少々スピードが落ちても高いギアをキープしたまま走る、いわゆる“クルーズ”状態ではエンジンの不等間隔爆発を、しっかりとエンジン回転を高めたファンライドではツインらしい軽やかさを感じられる。
トライアンフ的なクルーザーとは如何なるものか。開発陣は、マーケットはもちろん、自らが育んできた伝統とチャレンジ精神を掘り下げたに違いない。その結果生み出されたのが、このサンダーバードである。クールな外観と、秘めたる熱い魂。サンダーバードにも、英国的な二面性が込められている。
SPECIFICATIONS
TRANSMISSION:6-SPEED
LENGTH:2340mm
WIDTH:880mm
HEIGHT:1120mm
WEIGHT:308kg
WHEELBASE:1615mm
SEAT HEIGHT:700mm
ENGINE:2-cylinder 270°crank
DISPLACEMENT:1597cc
POWER:86ps/4850rpm
TORQUE:146.1Nm/2750rpm
TIRES:F:120/70R19 R:200/50R17
PRICE:1,953,000~1,984,500yen