BMW3シリーズやM・ベンツCクラスなど、各メーカーの人気モデルがひしめくDセグメント。155の後継モデルである156がそんな激戦区にデビューしたのは98年5月のこと。156の流麗なデザインは日本でも多くの人を虜にした。須川展也さんもその中のひとり。 「当時はどの雑誌を見ても156の特集が組まれていました。僕も写真を見て一目ぼれしてしまい、そのままディーラーに足を運びました。ただ、このとき僕は運転免許を持っていなかったんですよ。幸い注文が殺到していて納車まで時間がかかったので、その間に教習所に通いました」
音楽家とは元来練習好きなのだという。初めてのクルマ、しかもMT。須川さんは毎夜近所で坂道発進や車庫入れの練習をし、ドラテク向上の教則本も読みあさった。その甲斐あって、半年後にはヒールアンドトーをマスターしていたそうだ。 運転する楽しさにのめり込んでいった須川さんは、全国で数あるコンサートのうち、多くをクルマで移動するようになった。 「オーケストラは楽器をトラックで運ぶわけだから、僕だってクルマで行けるはず。最初はそんな単純な動機でした。実際にやってみると、車内で過ごす時間が大切なものになっていったんですよ。演奏家は聴き手に喜びや感動を与えるのが仕事です。でも運転は相手ではなく自分と向き合うもの。そこで心のバランスを取ることができるんです。仲間は驚いていますよ。37歳まで免許も持っていなかった僕が、急にクルマ漬けの生活を送っているのですから」
現在はほぼ同時期に手に入れたアルファGTとポルシェ911カレラ4S(997型)の2台態勢。もちろん両車ともMTを選んだ。乗るクルマは朝の気分で決めているが、走行距離を聞く限り、アルファGTを選ぶ機会が多いようだ。 「ポルシェ、あるいはフェラーリなどと違い、アルファロメオは絶対的なパワーを持っているわけではない。でも何か惹かれるものがあるんですよ。シートに座るだけでワクワクして、エンジン音を聴くとテンションが高まる。まるで音楽のようですね。東京から地元の静岡県浜松市に帰るときも、単に高速道路を走るのではなく、つい箱根の山を越えていきたくなるんです。年に何回かは九州までクルマで行きます。普通なら東名高速~山陽自動車道という海沿いのなだらかな道を選ぶのでしょうが、僕は中央高速~中国自動車道という山側のルートを通るのが好き。こっちのほうがおいしいコーナーがたくさんありますからね(笑)」
シフトチェンジで回転数をしっかりと合わせてクルマを滑らかに走らせる。前を走るトラックと呼吸を合わせるように追い越しをする。法定速度内でも自分で物語を作れるのが長距離移動の醍醐味。クルマとの無言の会話。この感覚は演奏に通じるものがある。だからこそ、今後乗るクルマも自分のエモーショナルな部分を引き立ててくれるものを選んでいきたいと考えている。「気になっているのはポルシェ・パナメーラ。4ドアボディの中に、どんなパフォーマンスを詰め込んでいるのか。今からワクワクしています」
【Official HP】http://www.sugawasax.com/
text / TAKAHASHI Mitsuru photos / OKUMURA Junichi