
10年間、世界を舞台に戦い続けている中野真矢選手。クルマ選びは洋服と同じように、自己表現の手段と考えているようです
中野選手がサーキットデビューしたのは5歳。以来、週末はサーキットを転戦する生活を送ってきた。家のクルマはトランスポーターを兼ねる1BOX。一方で父親はドイツ車が大好きで、クルマ雑誌を読みながらVWやM・ベンツがいかに素晴らしいかを話していたそうだ。中野選手のクルマ選びは、父親の影響を色濃く受けているという。
「僕が免許を取ったときはすでにプロ契約をしていたので、自分でマシンを運ぶことはありませんでした。でも家にあった日産ラルゴを譲り受けたので、ヘルメットやつなぎを積んでサーキットを回っていました。ラルゴには釣り竿を載せてあったので、帰りに釣りを楽しんだりとかね。次に乗ったのはNEWミニでした。世界選手権に参戦していた01年、パリの街で見かけて一目惚れ。すぐに日本にもあるかを確認しました。試乗時にバスンと閉まるドアに感動したのを覚えています。それで購入を決めました。どうせなら派手なほうがいいと、選んだのはソリッドなイエロー。僕が日本にいない間は母親が使うのでCVTにしました。ミニのCVTはちょっと荒削りだったけれど、そういう部分も含めて、可愛いヤツでしたね」
サーキットで戦うことを生業とするレーサーは、プライベートで乗るマシンにも絶対的な性能を求めるもの。当然選び方もシビアになる。そんな先入観をもって取材に挑んだ。ところが話を聞いてみると、あまりのギャップに驚いた。世界中のトップと1/1000秒を争う極限状態に身を置いているとは思えない、穏やかさがにじみ出ている。クルマ選びも僕らとなんら変わらない。そんな感想をぶつけてみたら、笑いながら答えてくれた。
「一般のライダーにバイクが好きな理由を尋ねると、たいてい『風が気持ちいい』と答えますよね。でも300km/hの世界ではそんな悠長なことは言っていられない。空気という“壁”にむき出しの身体で突っ込んでいくし、ブレーキングでは強烈なGを無理矢理抑え込みます。気持ちよさとは無縁の世界。だからこそプライベートでは無意識のうちに戦いと一線を画しているのかもしれないですね。バイクもオフロードタイプで林道をトロトロ走るのが好きなんですよ。それこそ風の気持ちよさを存分に味わえる乗り方だから。取材で好きなドライブ&ツーリングコースを聞かれるとき、『攻めがいのある峠は…』というような答えを期待されていると思うのですが、僕にとっては家族と出かける近所のショッピングセンターまでの道のりがもっとも好きだったりするんです」
このアウディTT3.2クワトロは父親と共同購入。現行型TTがデビューした2年前、レースの拠点としていたパリの空港に飾られていたのを見かけ一発で気に入った。すぐに携帯電話で写真を撮り、その場でメール。父親とも意気投合した。 「クーペということで母親は反対したのですが、2人で『同クラスだとM・ベンツならSLKで2シーターになってしまう。TTなら後ろにも乗れるよ』と説得しました。まあ実際は狭すぎて乗るのはしんどいですけれどね(笑)。細かい装備などは父任せ。そうしたら黒いボディに赤い内装だって。派手すぎるだろうと思ったけれど、実車を見たら意外にシックだったので安心しました」
中野選手にとってのエッジなクルマとは、乗ることでしっかりと自己表現ができるものだという。クルマは自分だけの一点ものをもつことは難しい。でもブランドの世界観やデザインで自己表現は十分にできるはず。洋服選びとも近い感覚。では究極にエッジな一台を選ぶとしたら…。「ポルシェ911。ただし僕は絶対性能というよりも、ブランドイメージとデザインのお洒落さが好きなんです。一度雑誌の取材で911ターボに乗せてもらったことがあるんですよ。取材前はかなり興奮していたけれど、実際に乗ったらクラッチが重くて僕にはストイックすぎましたね(笑)」

【Official HP】http://www.shinya56.com/

56design
“Life with motorcycles”をコンセプトに中野選手が昨年10月に立ち上げたブランド。日常の中でもバイクの楽しさを感じられるようなアイテムを多数取り揃えている。住所:千葉県千葉市中央区椿森3-3-4 TEL:043-445-8856
営業時間:11:00~19:00(水曜日定休)http://www.56-design.com/
text / TAKAHASHI Mitsuru photos / OKUMURA Junichi